本文へスキップ

    

    



enjoy outdoorlifeenjoy a real taste of local culture

地域文化を味わう時代に

                            高知県立歴史民俗資料館 学芸課チーフ   梅野光興


   地域に住む人も、よそから訪ねてくる人も、地域の個性を楽しむ時代がやって来ました。「個性」はよそのどこにもないオンリーワンである必要はありません。一見似たような地域でも、風土、地形、植生、歴史、文化などひとつとして同じ地域は無いのです。
例えば民具は、一見どこの村にも同じ物があるように見えますが、民具の個体にはひとつとして同じ物はないと言って良く、広い範囲で比較することで地域による違いが見えてきます。
ざる    また同じ種類の民具をたくさん集めれば、ひとつひとつの資料の違いから、地域の仕事や自然環境、周辺の町との商業、交流関係、それらの歴史的変化などいろんなことが見え始めます。1点の資料だけではわからないことも、複数の資料があれば比較できるので、考えるヒントを得られます。民具は地域の個性と人間の歴史そのものなのです。
   民具の良いところは、有名な歴史事象や特徴的な自然環境の無い所でも人間の営みさえあれば必ず使われてきたということです。民具や民俗は地域を選ばず、文化資源にできます。幸い今なら地方の民家の蔵や納屋に民具が残されています。世代交代で民具がどんどん消失している今が、地域文化を残す最後のチャンスかも知れないのです。

膳箱    民具や古文書など地域資料を集めた博物館は地味かも知れません。でもこのようなタイプの博物館が注目される時代が来ています。観光の形が変わり、当たり前と思われてきた地域の暮らしが貴重なものとして世界の注目を集めていく時代になっています。地域の情報や資料は、どんなに大きな本屋やインターネットを探しても、まず見つかりません。つまり、インターネットも無いレアな情報やモノが地域には無尽蔵に眠っているのです。ただ、町おこしや村おこしにやっきになっている地方の多くはこの宝の山にまだまだ気づいていないようです。
   地域の遺産である民具や古文書や情報をストックし、地域の特性を発信できる素材を持ち伝えているか否か(そうしてうまく発信できるかどうか)が未来を分ける、私はそう確信しています。
*梅野光興「地方消滅時代の地域博物館」(四国ミュージアム研究会編『もっと博物館が好きっ!―みんなと歩む学芸員―』教育出版センター、2016年2月)、p.67-69より転載)


(2016年8月11日)

バナースペース

リアル高知

address